公立一貫校での変革と挑戦〜「自主自律」をアップデートせよ〜

CASE
実績

  • 学校・官公庁・企業事例
  • 千葉県立東葛飾中学校・高等学校教諭 山元 洋先生

公立一貫校での変革と挑戦〜「自主自律」をアップデートせよ〜

INTRODUCTION記事紹介

大学院修了後、三鷹市のアジア・アフリカ語学院、府中市の警察大学校等で英会話講師を務めた後、都内の私立中高一貫校で6年間勤務。2009年、県立千葉中学校・高等学校に移る。一都三県交流人事による2年間の東京都立両国高等学校・附属中学校に勤務。総合的な学習の時間(現:総合的な探究の時間-高校)において、今で言う探求・探究的なアプローチと本格的に出会う。2016年東葛中開校と同時に赴任、新しい学校づくりに邁進する7年間の中学校本務を経て、2023年度から3年間中学校で学年主任を務めた中学5期生とともに、高校本務へ異動。現在、高校一学年副主任・クラス担任、総合的な探究の時間担当。

PROGRAMS
プログラム

2018
東葛飾中学校 アントレプレナーシップ海外研修@アメリカ

チームで世の中にインパクトを与える問題を設定し、その解決を実現するアイデア創造を行い、世界へのアイデア発信に挑戦するプログラムです。約半年に及ぶ事前研修後に、ロサンゼルスでの最終発表に取り組みました。

2019
東葛飾中学校 アントレプレナーシップ海外研修@アメリカ

チームで世の中にインパクトを与える問題を設定し、その解決を実現するアイデア創造を行い、世界へのアイデア発信に挑戦するプログラムです。約半年に及ぶ事前研修を行いました。海外研修は、新型コロナウィルスの影響により渡航が叶いませんでした。

2020
東葛飾中学校 アントレプレナーシップ連続講座@学校

チームで世の中にインパクトを与える問題を設定し、その解決を実現するアイデア創造を行い、英語でのビジネスピッチに挑戦するプログラムです。

2022
東葛飾中学校 アントレプレナーシップ研修@学校

チームで世の中にインパクトを与える問題を設定し、その解決を実現するアイデア創造を行います。最後には、多様なバックグラウンドを持つ、海外からの留学生に対して英語でのビジネスピッチに挑戦するプログラムです。英語での成功体験と、多角的な視点を得た状態で、生徒達はシンガポールでの海外研修へ旅立ちます。

2023
東葛飾中学校 アントレプレナーシップ研修@学校

チームで世の中にインパクトを与える問題を設定し、その解決を実現するアイデア創造を行います。最後には、多様なバックグラウンドを持つ、海外からの留学生に対して英語でのビジネスピッチに挑戦するプログラムです。英語での成功体験と、多角的な視点を得た状態で、生徒達はシンガポールでの海外研修へ旅立ちます。

千葉県立東葛飾中学校・高等学校の公立一貫校としての設立経緯を教えてください。





千葉にある県立高校に併設中学校を併設する取り組みは、千葉県立東葛飾中学校が2校目となります。当時、ちょうど県立高校の統廃合が進められていた時期ではありましたが、県としては東葛地域にフラッグシップ的に併設型の中高一貫を作りたいという意向があったようです。千葉県の公立高校の御三家である県立千葉高校はすでに併設中学校を開校し一貫教育の充実を図ろうとしており、千葉県立船橋高校は大学入試対策に注力し、進学実績を向上させ始めようとしていたのに対し、では東葛飾高校は何ができるのか、という議論を始めたところ、東葛飾の自由な校風を生かしてを進化を図ろうとした際の最適解が、県下2校目の中高一貫校化することだったように推察します。私は、中学校の開設と同時に着任したのですが、実はそれ以前に千葉県にとっての初めての中高一貫校である千葉県立千葉中学校・高等学校(2008年設立)で勤務していたことがあり、東葛飾中学校に来てからは、当時の経験をフルに活かし、私がもつすべての知見と労力を注ぎ込んで公立一貫校の完成形を目指すべく、文字通り粉骨砕身の日々が始まりました。







県として初めての公立一貫校のチャレンジは、きっと多くの学びがあったことと思います。だからこそ、2回目の東葛飾では「完成形」を目指そうと思われたわけですね。







そうです。私は実際に千葉中学校・高等学校が一貫校化した翌年から5年間ほど働いていて、草創期ならではの素晴らしさを強く感じたと共に、改善できる余地にも気づかされました。そこで、実際に見てきた反省点や、先達からご教授いただいた教訓を生かし、どのような策を施せるかを考えながら東葛飾ならではの学びのコンセプトを固めるために、他の先生方と協力していったのです。







具体的に見つけた反省点はどのようなものがありましたか?







協働学習が徐々にうまく機能していなくなっているように思いました。千葉中学校・高等学校の開設当初は開設準備委員の先生方を中心に内外の知見を元に作られたカリキュラムに沿って授業を展開していましたが、次第に、教員が入れ替わっていくことで協働学習に精通した者が減り、ノウハウが枯渇したのが原因かと思われます。私も参画したのですが、教師陣の経験値や年齢は多様で、皆で足並みを揃えて協働学習の改善を行うことは難しく、コンセプトと実情に乖離が発生してしまいました。

1年間の協働学習を2期に分け、縦割りのゼミ形式の学びの場を作り、1期ごとにテーマを決め、研究を進め各期の終わりにその成果を発表し、最終回では5期分の研究成果を卒業論文という形でアウトプットする。これが千葉中学校における総合的な学習の時間の根っことなっていました。

今のタクトピアさんが提供しているアントレプレナーシップや探究学習は常に協働的で多様なプレイヤーが参画して成り立つ形式をしていますよね。これこそが千葉中学校が目指していたものだったのかもしれません。







ものすごく先進的なコンセプトだったんですね。







そう、しかも10年以上も前のことです。しかし、半期ごとに変える協働学習のテーマ設定やゼミ形式の指導など教員が行うため負担が過大となり、規模が縮小されていきました。東葛飾中学校では、開校前からこの協働学習の文化を良い形で引き継ぎたいと準備が進められていました。


着任当初、東葛飾中学校で実現したい新しい学び・ビジョンはどのようなものだったか教えてください。





「揺るぎない学力」と「自己規律力」を高め、中高6年間を通した目標である「次代のリーダーの基礎を築く」こと方針として定めらました。その方針を3年間のステップとして概念図に落とし込んだ学校案内パンフレットは、私が中心となって元々あったものから大幅に改変したものです。(下図)。この最終ステージにあたる「海外研修プロジェクト」にタクトピアさんが参画しているわけです。






(出典: 千葉県立東葛中学校ホームページより )








こういったグランドデザインのもと、タクトピアのプログラムを採用頂いたわけですね。








実はこの流れって開校時に作られていたわけではないんです。総合的学習の時間を「繋げる・繋がる」というキーワードのもとにデザインしようという話はあったのですが、それを具現化する活動がなかったため、一期生が進級するのに合わせて教員同士が知恵を出し合いながら創り上げていきました。


学び・ビジョンを実現する上で、タクトピアが支援した海外研修はどういった位置づけなのでしょう?





本校では全教科において、対話的な学習スタイルを基本としています。「問われたら答える」「答えたら問う」。何かを学習したら生徒同士、「どういうこと?」と互いの理解や意見を確かめ合う。そんな学びの終着地点として、海外研修をロサンゼルスで実施することは開校前から決まっていました。しかし、肝心の中身をどう作っていくかについては、ゼロベースで私一人で取り組むのはさすがに厳しいなと。そんなとき、ある旅行社さんがタクトピアさんをご紹介くださったのです。これはもう当時の担当者さんのGood jobであったとしか言いようがないです。タクトピアさんはただプログラムを提供するのではなく、東葛中の学びに適応した場を共に作ってくださる伴走者のような立ち位置で、学びの総仕上げをお手伝いくださったわけです。







初めてタクトピアと会った際の印象はどうでしたか?








お持ちいただいた提案書の事前研修のモデルケースを見たとき、「この企業しかない、全部これでいい」と思いました。一緒に走ってくれて、こちらの理念を語れば自由自在にプログラムをカスタマイズしてくれるタクトピアさんがオンリーワンの選択だなとその瞬間に感じました。ロサンゼルスでの現地研修のデザインに関しても、「海外に行けて満足」ではなく、そこで何を成すのかを大切にする考え方に私たちとの高い親和性を感じました。





なるほど。単なる海外研修ではなく、国内での事前研修を含めた統合的なプランをご提案できたことがよかったんですね。


タクトピアならではの価値だなと感じる具体的な場面などはありますか?





プログラム全体を通して、TeachingではなくてFacilitatingに徹しているところだと思います。「今日はこんなことをやります」と冒頭で伝えるものの、それに沿って生徒に何かを教え込むのではなく、あくまで生徒が主体的に対話し自らの力で何かを得るために情報を提供する形式で授業が進んでいきます。これは本校が目指している授業そのもので、しかもこれを英語でやってくださるのが最高なんですよね。







まさに東葛飾中学校が目指されている授業のあり方とマッチしていたんですね。








対話的な授業に加えて、中学校英語科は将来的に実用に耐える英語力の養成の基礎を築くことを目標にしています。スペリングの細かいところなどは一切見ず、テストも行わないため、保護者様や生徒自身も「本当に大丈夫なのか?」と最後まで疑いながら中学3年生になります。そこで、タクトピアさんのプログラムと海外研修を経験して、自分たちの過去の努力の成果と成長により高い運用能力を身に着けていたことに気づくんです。まさに、探究や対話や英語など、バラバラになっていたピースがハマって、最終的に各々の絵が完成するようにです。この一連の学びのストーリーを目の当たりにして、本校が追求してきた学びのかたちとは「アントレプレナーシップ」ではなかったのか、とのちに気づくことになりました。


公立校として、外部パートナーと有意義にコラボするために何を重要視されていますか?





持続可能性です。本校は、欲しい生徒像を明確にして適性検査を実施して選抜を行っています。だからこそ、年度によって授業の内容が大幅に変わると、期待を抱いて入学してくださった生徒と保護者の期待を裏切ってしまうことになります。私はいずれ本校を離れることになりますが、離任後もこの学校のコンセプトと学びの環境は絶対に変わってはいけないと考えています。これが、公立中高一貫校である本校の使命だと思っています。その観点から、外部パートナーと組むことによって永続的にこのアントレプレナーシップのプログラムを提供できるようにカスタマイズしてきました。


2023年度、山元先生は中学校本務から高校本務に移られましたね。中高の6年間を一貫して刷新できるステージに入った印象ですが、何か新しく得られた視点はありますか?





新しい環境に実際に身を投じてから、何かを仕掛ける前に、まず高等学校がどのようなシステムなのかをじっくり観察しています。中学とは違い義務教育ではないことや、一学年の生徒数が320名と桁違いに多く、全体の2/3はそれぞれが異なる中学校で教育を受けてきた高入生であることなど、教師側の私にとっても変化が大きいです。一方で、中学校時代に3年間コンセプトを共有してきた、同志のような生徒たちが80人いるわけです。この現状を踏まえて、自分に何ができるかを模索している段階です。







そう考えると大きな環境変化ではありますが、共に歩んできた中入生が高校変革のキープレイヤーになる可能性を秘めていますね。







そうですね。彼らには、現状の高校のシステムに頼らずに、自らアクションを起こしていこうと伝えていました。3年間ともに走ってくれて、成長してくれたことに大変な感謝を感じています。また、3年間共に歩んできたこともあり、お互いの信頼感もあると思います。保護者様からも、私が一緒に高校に上がったことに「安心しました」「また一緒に活動できてよかったです」と仰って頂きました。これから起していく変革に際しても、生徒・教員・保護者の連携をより一層活かしていきたいですね。


現在描かれている新しい学びのビジョンはありますか?





新学習指導要領により、観点別評価が高校に導入されました。それと同時に、「総合的な学習の時間」が、「総合的な探究の時間」(※東葛飾高校では「自由研究」という名称で実施されている)に変わりましたね。これはつまり、アントレプレナーシップを学ぶということではないかと思っています。世の中を見渡しても、公立私立の別を問わず、また中学生からでも、アントレプレナーシップの取り組みが増加し、浸透してきたように感じています。東葛飾でも中高6年間のひとつながりの学びとして、この潮流をリードできるようになっていきたいですね。

実は高校の「自由研究」については、少し前から変革に携わっており、徐々にアイデアのシェアや対話型のセッションを取り入れるなど授業進行のガイドラインを大幅に変更しました。このガイドライン上で動いている2023年度の高校1,2年生たちは、明らかに例年とは動きが違うと感じています。







つまり、今の高校2年生が山元先生の変革の波の最前線ということですね?







はい。何十年も漫然と続けていた高校の「自由研究」の様相がついに変わり始めたと考えています。生徒自らが、主体的に調査をしたりやプロジェクトを進めたりしています。私が特別に何を仕掛けるというよりは、撒いてきた種が咲き始めてきた学年であると考えています。進学実績という観点でも、有名国公立大学入学者の再びの増加や海外大学への進学などこれまでとは違う兆しも見えてきました。本校の校是である「自主自律」が、時代に則したものへと変わっていく実感がありますし、私もその一端を担っていきたいと思っています。