10年先、20年先の社会で必要とされる力を育てるために

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実績

  • 学校・官公庁・企業事例
  • 山手学院中学校・高等学校 時乗洋昭校長

10年先、20年先の社会で必要とされる力を育てるために

INTRODUCTION記事紹介

神奈川県公立校の高校改革に長年携わりながら、10年先・20年先の社会を生きる生徒に必要な学びを提供するために、学校の枠を越えて新しい取り組みを取り入れながら、平均的な教育ではないそれぞれを伸ばす教育を実践にされてきた時乗校長。校長先生として持たれている教育ビジョンと、その実現にむけてタクトピアのプログラムがどう寄与しているのかをお伺いしました!

PROGRAMS
プログラム

2019-2020年
複数校合同アントレプレナーシップ海外研修@アメリカ(ボストン)

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チームで世の中にインパクトを与える問題解決に取組む、約2週間に及ぶプログラムです。 海外大学寮で暮らしながら、最先端で活躍する人々と出会いながら、異国の地でのアイデア創造に挑戦します。

2019-2020年
アントレプレナーシップ連続講座Grassroots Innovator Program@山手学院

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日常生活の中にある身近な課題を捉え、チームでその解決に動く半年から1年にかけて行われるプログラムです。机上のアイデアに終わらせず、「教わる」のではなく「実際にやってみる」ことに重きを起き、アイデアを具現化させ課題が少しでも解決されるように友達・家族・先生・地域の人々・団体などに働きかける「社会実装」まで取り組みます。

タクトピアとのプログラムを行っていただいておりますが、いつも時乗校長には明確な教育ビジョンがいつもあるように思います。時乗校長の教育ビジョンや、そのビジョンが形成されてきた教員生活の中で重要だったご経験について、最初にお伺いしても良いでしょうか?

これまでの教員生活の中で新しい学校をつくる経験が多いことが影響しているかもしれません。

新しい学校を作りにかかわり始めたのは42才のころからで、本格的には教頭になった45才の時からです。神奈川県の中では、比較的若い年齢で教頭になりましたが、その背景には高校改革がありました。丁度私が教頭に就いた2000年あたりから、神奈川県内の学校数を減らし、2つあった学校を1つ学校に再編し新しい学校を作るという高校改革が始まりました。

当時私は、全日制・定時制・通信制の3課程がある厚木南高校にいましたが、その3課程を活用し、新しくフレキシブルスクールを作る計画が持ち上がり、その担当に就くことになりました。

フレキシブルスクールで目指した学校とは、学校入学の入口としては各課程から入学しますが、在学中は各課程の良いところ取りをして、自由に学ぶことができるという学校像をイメージしていました。全日制の生徒のように、通信制で入った生徒も、学校に来たければ毎日学校に来て朝から勉強してもいいといった、ひとりひとりの学びたい形態に合わせて学ぶことができる学校です。

その担当に就いたことをきっかけに、それ以降新しい学校を作るという仕事を学校や教育委員会で行ってきました。その過程で、横浜修悠館という学校作りも担当しましたが、そこでの考えを現在でも大切にしています。


通常の公立校では、どこかの学校で新しいことを行なう場合は、他の学校でも導入できるものでないと実現できません。しかし、その学校は、神奈川県内の2校の通信制課程を統合して、新たに通信制課程だけの単独校をつくという計画だったため、唯一だからこそ、横並びで導入できるかどうかを検討する必要がなく、取り入れてみたいことをどんどん取り入れていける状況でした。

通信制には様々なタイプの子ども達が入学してくるので、学校や教員が持っているリソースやノウハウだけでは、多様な子ども達への対応が十分にできないと感じていました。そのため、NPO団体やフリースクールの関係者など、学校外の様々な人達にどんどん学校内に入ってもらうような体制を作りました。本当に大変な課題を持っている子どもたちに対して、一定のセーフティーネットがある体制になればと思っていましたが、一番の根底にあったのは「一人ひとりが持っている力を伸ばしていこう」と言うことでした。高い力を持っている子どもたちはその力をどんどん伸ばしていけばいいし、色んな意味で困難を抱えている子どもたちは自分の持っている良いところを伸ばしていけばいい。「平均的な教育をやめよう。何が平均的かという考え方もやめていこう。」と話していました。そうした学校づくりで実践してきたことが、私が新しいことを取り入れて、色々なことをやりだす出発点でした。

その後、湘南高校など公立校で校長をしてきましたが、一人一人が持っている力を伸ばしていく学校を作っていくということをずっと大事にしてきました。学校全体にあてはめるのではなく、生徒一人ひとりが力を発揮できる環境を作り、生徒が「自分の力でやり切った」という経験値を持って卒業してほしいと考えています。


現在(2020年9月)は学校での学びに新型コロナウイルスの影響が強い状況ですが、その最中で時乗校長が「自律的学習者を育てる」と発信されていましたが、その発信の裏にも同様の考え方があるのでしょうか?

今の教育を受けている生徒達は、最終的には今から10年先20年先の未来に、自分たちで生活をしていかなくてはいけない。その10年先の社会は、平均的なことができるだけでは食べてはいけない社会になっていると考えています。その時代には、自分のやりたいことを自分でみつけて、やりたいことを自ら表現し、仲間を集めてやり抜く力やノウハウが必要です。現在校長をしている山手学院に来ることになったのは、今から2年前の12月ですが、着任にむけて10年先に必ず必要となる能力を育成できる学びはないかと色々探していたところ、タクトピアさんにたどり着き、講演会を聞いたことをきっかけに問い合せをしました。今後10年先を見据えた時に、タクトピアさんが提唱されている考え方や非認知能力を育成するプログラムがいいなと感じました。


ありがとうございます。様々な学校で校長をされてきましたが、山手学院でははじめての私立学校のご担当になられたかと思います。その中で私立と公立の違いはありますか?

山手学院は中高一貫校なのがすごく魅力ですね。湘南高校では3年間で一定のことをやろうとしても、大学入試への対策もあることから、3年間という期間では短いと感じていました。実質4年間は必要だと思っていたので、中高6年間で一貫して教育を届けられるのは魅力でしたね。ただ、6年間にも課題はあります。中学1年になる時には生徒も「中学校に入って頑張るぞ。」というモチベーション持っており、それで何とか2年間ぐらいは保てるものの、3年になってくると高校入試もないので、だらけてしてしまいがちです。1年間もだらけた後にその延長線上で高校になり、ようやく高校2-3年でまた頑張るかとピリッとしてきます。中学3年から高校1年の2年間をきちんとした形で過ごさせるかによって、中高6年間が活きてくるか活きてこないかが変わってくると思っています。高い意欲を持って高校2年につなげていくためには、中学3年、高校1年の2年間で高い非認知能力の育成とワクワクドキドキする体験が必要です。これらを実現する教育活動としてタクトピアさんのプログラムを導入することにしました。


中学3年と高校1年で、特にこういう活動をさせたいというイメージはあったんでしょうか?

「なぜ勉強するのか?なぜ大学にいくのか?」ということを、生徒自身の中で自分なりの理由を見つけ、内発的なモチベーションをもってもらう活動を、中学3年と高校1年の2年間でやらせたいと思っています。その結果、高校2-3年になったときに、「勉強しろ。」なんて言わなくても、自分で自律的に勉強していく形にしたいと思っています。学校が「あれやれ、これやれ、それやれ。」と言うようにやることを増やして取り組ませていくことも1つのやり方だと思いますが、大学に行った後は誰もそんな風には助けてくれません。高校2-3年ぐらいからは、自分でどんどん勉強していけるようになっていないと、大学に入ったら遊び一辺倒になってしまうと思います。自律した学習者になるために、中学3年から高校1年で勉強するモチベーションを戻してあげたい、そのための2年間にすべきだと考えています。


具体的に、内発的なモチベーションとしてこういうものを身につけて欲しいというのはありますか?

なんでもいいと思いますが、内発的モチベーションを身につけるために、本当に小さなことでもいいので、自分なりの「これはできたぜ。」という成功体験を得ることが必要だと思っています。当然その成功体験にいたるまで、沢山の失敗をすることになると思いますが、その過程も学びになります。その試行錯誤も含めて「最後には、ここまでできたぜ。」と言うやり切った感を持たせたいと思っています。そして、その失敗や成功体験を、自分1人でやるのもいいかもしれませんが、仲間と共にやりきる部分も必要だと思っています。

そうした経験を積むことで、結果として高校2-3年を乗り切るモチベーションを高められると思っています。


内発的モチベーションを高める活動として、タクトピアが提供しているアントレプレナーシップのプログラムは最適だったのでしょうか?

これまで話した背景以外にも、スタンフォード大学の中村先生の話を4-5年前に聞く機会があったのですが、日本と違ってスタンフォード卒の優秀な大学生は大企業や官公庁に就職はあまりしないとおっしゃっていたこともアントレプレナーシップにたどり着いた理由の1つです。優秀な人達の多くは、自ら会社を起こしていくという話だったのですが、その話を聞いて、これから先の時代は大企業に入って何かをする時代ではなく、逆に自分達が起こした企業や活動が、世の中を変えていくような時代になるだろうなと考えています。そうした未来を見据えた時に、高校を卒業したら大学に入学し、大学を卒業したら大企業や官公庁に就職するというこれまでのライフスタイルを打ち破るような刺激を与えてやりたいと思っていたので、アントレプレナーシップは最適な教育活動だと考えています。


内発的モチベーションを高める活動として、アントレプレナーシップ以外にも研究をベースにするようなスタイルもありますが、そうしたプログラムは考えなかったのですか?

研究活動という方法もありますが、研究はどんどん1点にフォーカスを当てていく活動であると思っています。これから先の時代は、焦点を当てた1点に入り込んでいくというより、逆にその1点からより大きな範囲に拡散していくような学びや活動が求められると思っています。決して1点に入り込んでいくことがダメだと言っているわけではありません。ただ、内発的モチベーションを高める深い学びとは、焦点を当てた1点からその先が拡散していくようなものだと思っています。そして、その方がより活躍できる舞台が広がるのではないかと思っています。

そうした学びや活動が拡がっていくために、1番重要なファクターは「どうやって色んな人と繋がっていくのか。」だと思っています。自分1人で考えられることは限られる中、1人が2人になり、2人が3人になりと、色んな人達の考えや得意が重なっていくことで、想像できることや実践できることが広がっていきます。そういった意味で人と人との繋がりをずっと大切にしていきたいですし、これからの世の中ではより大切になると思っています。

横浜修悠館を作った際も、解決しなくてはいけない多くの課題がありましたが、様々な解決策を持っている人たちが集まってくれたことで、いくつも難関を乗り越えることができました。

これからは、そうした人との繋がりをもとに活動を広げられることが大切になると思います。そして、このようなことを体験するためには、研究ベースの活動ではなく社会課題に挑戦する活動の方が適しているだろうと考えています。


校長先生の中で、人と繋がりながら広げていく活動であるアントレプレナーシッププログラムを受講している生徒に、どのような変化が起こってきていると感じていますか

受講している生徒の中で、学校の階段で会った私にその時考えていたアイデアをピッチしてきた生徒がいましたが、自分で何かこれをやりたいというものを持つようになった気がします。私が山手学院に着任した去年の4-5月は、生徒と話していても、おそらく何かやりたい思いを持っているのだろうけど、どうやって良いのかわからない、どうその思いを表現したらいいのかわからないと言った様子が見受けられました。この一年で、そうした生徒達が、夏のボストン研修に参加して一皮むけたり、学校外のプログラムに参加した生徒が、参加していない生徒にその刺激を還元してくれたりという変化が生まれてきました。昨年の秋から行ったアントレプレナーシッププログラムでは、参加した生徒が最終的に色んなところで行動を起こすなど、やっぱり彼らが持っている「何かやりたいんだけど・・・。」と言う思いを動かすための良い刺激になっていると思います。

新型コロナウイルスの影響で学校が休校になった際も、Googleクラスルームで私が担当するクラスを中学と高校に作りましたが、中学生と高校1-2年生はほぼほぼ加入してくれて、そこで色んな課題を出してもその反応がものすごく良い。特にアントレプレナーシッププログラムを受講している生徒たちの反応が良く、面白い回答してきてくれています。今まではなんとなく学校とか教員に対して壁を作っていた生徒達が、「そんなの関係ないんだ!」とどんどん発信し始めてきたというのも、アントレプレナーシッププログラムをやった1つの成果かなと感じています。


今後タクトピアのプログラムを通して、また学校生活を通して、生徒のみなさんにこうなってほしいなという期待はありますか?

今年からアントレプレナーシップをテーマに通年プログラムとして構築したGrassroots Innovator Programの設計段階でも話をしましたが、地元との交流や接点がありません。今回の発表の中でも、いくつか地域の課題に目を向けている生徒たちがいましたが、地域と一緒になってかつどう進められるような形になると面白いなとおもっていますし、Programの後半はアイデアを実践していくことになるので、どうなっていくのか興味があります。

山手学院の大切にしている生徒へのメッセージとして、設立者の「地球を1センチでも動かす働きをしろ。」というものと、「世界平和に貢献すること。」というものがあります。私はそのメッセージをそのまま生徒に伝える時もありますし、少し言い方を変えて「山手学院はチェンジメーカーを作るんだ!チェンジメーカーを育てるんだ!」と伝えていることもあります。そのチェンジメーカーとして地球を動かすという話は、アントレプレナーシップで伝えているマインドにも通じる部分があると思っています。アントレプレナーシップは山手学院の精神でもあり、これから先必要とされる人にも求められるものだなと感じています。そうしたアントレプレナーシップのマインドを生徒たちが持ってくれることを期待しています。