不確実な未来へ立ち向かう学びと組織づくり

CASE
実績

  • 学校・官公庁・企業事例
  • 武蔵野大学高等学校・武蔵野大学附属千代田高等学院 日野田直彦校長(元大阪府立箕面高等学校校長)

不確実な未来へ立ち向かう学びと組織づくり

INTRODUCTION記事紹介

大阪府立箕面高校から海外大学進学者を多数輩出し、注目を浴びた日野田先生。2018年からは武蔵野大学中学校・高等学校の校長に就任し、PBLインターナショナルを新設するなど改革を推進しています。21世紀における学びに対する哲学や、学校という範囲に留まらない今後の展望などをお伺いしました!

PROGRAMS
プログラム

2019年
アントレプレナーシップ海外研修@アメリカ(ボストン)

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チームで世の中にインパクトを与える問題解決に取組む、約2週間に及ぶプログラムです。海外大学寮で暮らし、最先端で活躍する人々と出会いながら、異国の地でのアイデア創造に挑戦します。

2020年
アントレプレナーシップ連続講座(基礎編)@武蔵野大学高校

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経済産業省「未来の教室」実証事業として、アントレプレナーシップ連続講座を実施。海外研修で非日常で行ってきたアントレプレナーシップ研修を、日常でも実施することで足腰を着実に鍛えます。連続講座から実証データを取得することで汎用的な教材を共同開発し、最終的には学校の先生が講師として講座を運営できる体制づくりを狙いました。

タクトピアとの出会いはいつだったのでしょう?

2014年、グローバル教育を考える教員の勉強会でタクトピアの講演をお聞きしたのがきっかけです。当時、箕面高校では大阪府の「骨太の英語力養成事業」に取り組んでいました。国際的に通用する英語4技能試験であるTOEFLなどのスコアが達成目標になっていましたが、その本質は生徒たちの内部から湧き出てくるモチベーションを支援することだと思っており、達成するには生半可な国際系プログラムでは難しいと模索していたところだったんです。講演会は大阪の大きな会場だったのですが、私だけが最前列に座ってウンウンと頷きながら話を聞いていたので、講演中からバッチリ目が合っていましたよね。あっという間に意気投合して、懇親会ではすでに「どんなプログラムを実現していきたいか」を話していた記憶があります。その後、すぐに箕面高校にも来てもらって。あの日をきっかけに、箕面高校で複数年にわたってさまざまな研修体系を創り上げていった経緯は、著書にまとめたとおりです。いまの学校ではアントレプレナーシップを軸に、ボストンでの海外研修と、PBLインターナショナルの正課に組み込むかたちでの連続講座をタクトピアにお願いしています。


タクトピアに何を期待していますか?

箕面高校の時代から、タクトピアとは「学び」に対するマインドセットが非常にマッチしていました。生徒を学びの最先端に誘い、その厳しさと楽しさを紹介いただいてきました。私の無茶なリクエストをものともしない実現性と柔軟性を持ち合わせた会社さんであると思っています。「一緒にやるならここしかない!」と思いましたね。

その思いは現在の学校に移ってきてからも変わっておりません。実は、物理的に「海外に行って学ぶ」というのはただの手段なのです。私が好きなタクトピアのスタンスは、あくまで生徒が学びの主人公なのであり、大人たちは安全安心の環境づくりに徹すれば良いということ。また、生徒のオーナーシップやあり方に寄り添い、成長の伴走をしていただける、というところです。

いまの日本社会は、未だに「あるべき論」が強く意識されてしまって、結果苦しんでいることが多いな、という印象です。進路選びにしても仕事選びにしても、そんな場面をよく目にします。幸せの定義が不明で、どこへ向かえば良いのか分からない。外部環境に振り回されているという思いが強く、できない理由を自分の外に求めがちというのもありますね。

私がいつも言っているのは「自分の価値観を大事にしてほしい」ということです。伝統的な日本の教育においては生徒も学校も保護者も「言わない、言えない、言わせない」という雰囲気に満ち満ちてしまっています。でも、これではこれからの激動の世界を生きていくには辛すぎる。自分の価値観を自覚して、実現したいことを言葉にしていく。もちろん意見がぶつかり合うこともあるだろうけど、それを乗り越えたときに新しいアイデアが生まれるチャンスだと思って前向きな議論にしていく。そんな場所を学校のなかで実現させていきたいと常に思っています。


タクトピアのプログラムの導入後、生徒さんや学校様へどんな効果がありましたか?

一言で言うならば、「生徒が自律するきっかけになった」ということです。箕面高校では海外進学の実績が有名になりましたが、そこが本質的な価値ではありません。あくまでも、生徒一人ひとりが「自分の人生の舵を握った」ということが重要なのです。海外進学以外にも、国内外でイキイキと活躍している卒業生たちを見ていると頼もしい限りです。

研修プログラムに関わっていただくなかで教員側にも良いことがありました。アントレプレナーシップを学んでいる生徒をサポートしていると、「課題を発見して自らアクションしていくことって面白いんだな」という感覚が伝染していくんですよね。結果、指示待ち人間が減って、自分のしたいことを素直に発言してくれる職場に変わっていったのです。新しい学びのあり方が大人にも波及していったわけですね。

実際、単に外部の業者に研修を発注する、というのでは全く面白くないし、せっかくの学びの機会を無駄にしてしまいます。プログラムをテコにして、生徒も教員もマインドセットが変わってゆく。実は、この点は学校改革をするうえでの狙いの一つでもあります。学校の人口の1/3(生徒も教員も)が研修に関わってマインドセットが変われば、学校全体が動き出すのです。箕面高校は一学年400名の大所帯でしたが、年間で複数回の研修シーズンを設けることで、120名ほどがタクトピアのプログラムを受講し、学校の雰囲気を牽引していってくれる、というサイクルを生むことができました。


日野田先生は外部の民間企業を学校に巻き込むのが得意だという印象があります。外部連携は今後ますます必要になると思いますが、どうすれば学校はそれが可能になると思いますか?

学校に限らないのですが、「困っていることを表明して良いんだ」という文化を広げるべきだと思っています。「表明したら格好悪い」とか「ダメな奴だと思われる」などと恐れてしまうのではないでしょうか。人も組織も強みと弱みがあるのが当たり前ですから、学校として「こんなことやりたい、でも学校だけじゃできない、誰か助けて!」って言って良いと思うんですよね。私がこれまでしてきたのは、シンプルに言えばそういうことです。

もちろん、新しく備えるべきスキルや知識もあります。例えば、外部のプレイヤーと連携していくということは、学校にとっての「異質」を受け入れることであり、学校特有の文化を超えてチームを構築するということです。つまり、多様性を前提としたチームビルディングのスキルが必要になります。また当然、ベースとなる最近の組織論なども知っておく必要がありますよね。学びの現場である学校こそ、未来に向けて学んでいなければおかしいです。


今後、タクトピアとチャレンジしたいことは何ですか?

現在タクトピアとは経済産業省の「未来の教室」実証事業でご一緒しています。アントレプレナーシップのPBL講座を3カ年で学んでいくカリキュラムの1年目をスタートしているわけですが、海外研修と組み合わせながらこの3カ年構想を確実に実現していきたいです。卒業時に目指す姿は「社会実装ができるアントレプレナー型リーダー」です。アントレプレナーシップを学んだからといって、その先は起業でなくてもいい。このように予測困難で変化の激しい時代においては、既存の企業や組織の中で働くにもアントレプレナーシップが求められます。新しい価値を創造して幸せな人生を切り拓けるリーダーになってほしいと思っています。

3カ年構想を踏まえてさらに先の展望を考えると、タクトピアを含めて最先端の学びを実践しているベンチャー企業とアライアンスを組んで、新しい学校づくりをやってみたいですね。民間のチカラと地域のリソースを組み合わせて、生徒がやりたいことをとことん探究できるような、プロジェクト中心で学んでいくような学校です。いまの学校ではその素地を実験している段階なので、ノウハウをパッケージ化できたら興味のある学校さんにもご提供していけるような体制をとりたいと考えております。

また、そうした学校がどんどん当たり前になっていくと、次に課題となるのは教員側だと思います。アントレプレナーシップをもった未来志向の先生をどう育成していくか、これはどの学校でも喫緊の課題となっていくでしょうね。そのためには、先生自身が学校や教育に関する問題解決をアクティブに取り組む体験が必要となってくると思いますし、さらにそのためには、学校自体が不確実な未来に対して柔軟に立ち向かえる組織である必要があると思っています。生徒たちに伝えたい学びのあり方は、そのまま相似形で大人である自分たちが率先して実現していく仕事のあり方でもあるわけです。常に背中を見られているといういい意味での緊張感をもって、幸福と健康を追求しながら生徒たちとともに探究し続けたいと思います。